腕時計の磁気帯び、原因と症状と直し方|修理技能士が見た「意外な原因」と自分で磁気抜きしてはいけない理由

腕時計の磁気帯び、原因と症状と直し方

こんにちは、ふたさまです。一級時計修理技能士として、腕時計の修理に携わっています。

「最近、時計が急に進むようになった」「電池を替えたばかりなのに止まる」

こういう相談で、修理の現場でとても多い原因が磁気帯びです。時計の中の部品が磁気を帯びて、正しく動けなくなってしまう状態のことです。

この記事では、現場でよく見る原因と、ちょっと珍しかった原因、そして自分で磁気抜きをしてはいけない理由をまとめます。


結論

  • 磁気帯びの原因で一番多いのは、スマホと一緒に置く・ノートPCの上に置く・テレビの前に置く
  • 意外なところでは、磁気を帯びたカギやキーホルダー、マグネット付きのスチールラック
  • 磁気帯びはお店で磁気抜きしてもらう(メーカーのショップなら無料や安価のことも)。自分でやるのはナシ
  • 予防は、磁気を出すものから5〜10cm以上離すだけ

磁気帯びするとどうなる? 時計のタイプ別の症状

磁気の影響は、時計の動き方によって違います。セイコーの公式情報では、次のように説明されています。

時計のタイプ 磁気の影響
機械式時計 進んだり遅れたりする
アナログのクオーツ時計 止まる、針の動きがおかしくなる
デジタルのクオーツ時計 磁気の影響を受ける部品がない

修理の現場では、いらなくなったクオーツ時計を磁石に近づけて、お客さんに見てもらうことがあります。針がグルングルン回ったり、止まったりして、磁気の影響が一目で分かります。大事な時計では絶対に試さないでくださいね。

とくに機械式時計は、磁気を帯びると中の部品が影響を受けて、いろいろな症状が出ます。

  • 急に大きく進む
  • 逆に遅れる
  • ヒゲゼンマイ(時計の速さを決める細いゼンマイ)がくっついて、フル巻きでも動く時間が短くなる

「最近すぐ止まるな」という機械式時計も、磁気帯びが原因のことがあります。

クオーツ時計は、磁気のそばから離せば元に戻ることもあります。ただ、部品そのものが磁気を帯びてしまうと、離しても直りません。

「電池を替えたのにすぐ止まる」というクオーツ時計は、電池ではなく磁気帯びが原因のこともあります。

関連記事:腕時計の電池交換、どこに出す?


現場で一番多い原因

修理の現場でいちばんよく見るのは、この3つです。

スマホと一緒に置く

外した時計を、スマホと並べて机の上やカバンに入れていませんか? スマホのスピーカーなどには磁石が使われています。寝る前に、スマホと時計を同じトレイに置くのは典型的なパターンです。

ノートPCの上に置く

仕事中、外した時計をノートPCの上にポンと置く。これもよくあります。ノートPCには、スピーカーや画面を閉じたことを検知する部品などに磁石が入っています。

テレビの前に置く

テレビ台に時計を置くのもよくあるパターンです。テレビのスピーカー周りには磁気があります。


修理の現場で見た「意外な原因」

磁気を帯びたカギ・キーホルダー

ちょっと珍しかったのがこれです。カギやキーホルダーの金属が磁気を帯びていて、それと一緒に時計を置いていた、というケース。

金属は、磁石のそばに長くあると、それ自体が磁石のようになってしまうことがあります。カギやキーホルダーは、カバンのマグネット留め具やスマホと一緒に持ち歩くことが多いので、気づかないうちに磁気を帯びていることがあるんです。

スチールラックの上に置く

もうひとつは、スチールラックの上に時計を置いていたケース。

スチールラックそのものより、ラックに付けていたマグネット(フックや小物入れなど)が原因でした。マグネットで物を付けられる家具や小物は便利ですが、時計の置き場所としては要注意です。

カバンのマグネット留め具

「磁気なんて心当たりがない」という人に多いのが、カバンのマグネット留め具です。外した時計をカバンに入れたとき、ちょうど留め具の近くに来てしまうんですね。

「磁気なんてないよ」と言いながら…

磁気帯びを説明すると「家に磁気が出るものなんてないよ」と言っていたお客さんが、直った時計をスマホと同じポケットに入れて帰っていった、ということもありました。スマホはいちばん身近な磁気の発生源です。時計とは別のポケットに入れましょう。


磁気帯びしているか確かめる方法

家で手軽に確かめるなら、方位磁石を使う方法があります。

  1. 方位磁石を机の上に置き、針が止まるまで待つ
  2. 時計をゆっくり方位磁石に近づけ、周りを動かしてみる
  3. 針がピクッと動いたり、時計につられて動いたりしたら、磁気帯びしている可能性あり

誰でもすぐできる方法ですが、あくまで目安です。

確実に調べるには、お店の磁気測定器で見てもらうのが一番です。時計が急に進む・遅れる・止まるといった症状が出たら、まずは時計店に相談してみてください。


自分で磁気抜きをしてはいけない理由

ネットでは、数千円の「磁気抜き器(脱磁器)」が売られています。でも、自分で磁気抜きをするのはおすすめしません。

磁気抜きは、磁気を当てて、磁気を抜くという仕組みです。正しく使えば磁気が抜けますが、使い方を間違えると、かえって余計に磁気が入ってしまいます。

磁気帯びを直すつもりが、もっとひどくしてしまう。これでは意味がありません。磁気抜きは、お店で測定しながらやってもらいましょう。


お店に頼むときの料金

おすすめは、その時計のメーカーのショップ(直営店やサービスセンター)に持っていくことです。磁気抜きだけなら、無料や安い料金でやってもらえる可能性があります。

ただし、磁気の入り方によっては、磁気抜きだけでは直らず、オーバーホールを案内されることもあります。一般的な修理店でも、軽ければ数千円程度、部品にまで影響が出ていればオーバーホールと同じくらいかかることがあります。

磁気抜きだけで直るか、オーバーホールまで必要になるかの分かれ目は、時計の使用年数であることが多いです。長年オーバーホールしていない時計だと、磁気帯びは「きっかけ」にすぎず、もともと中の油が切れていたり部品がすり減っていたりして、本当の原因はそちら、ということもあります。

何年ごとに出せばいいかは、こちらにまとめています。→ 腕時計のオーバーホールは何年ごと?「3年」は本当か


予防法:5〜10cm離すだけ

セイコーによると、磁気を出す製品から5〜10cm以上離せば、ほとんど影響を受けないそうです。

  • スマホ・ノートPC・タブレットの上やすぐ横に置かない
  • テレビやスピーカーのそばに置かない
  • カバンのマグネット留め具の近くに入れない
  • カギやキーホルダーとまとめて置かない
  • マグネットの付いた家具や小物の上に置かない

外した時計の「定位置」を、こうしたものから離れた場所に決めておくのがいちばんの予防です。

関連記事:機械式時計の保管方法|ワインダーは必要?


まとめ

  • 磁気帯びの原因で多いのは、スマホ・ノートPC・テレビのそばに置くこと
  • 意外な原因として、磁気を帯びたカギやキーホルダー、マグネット付きのスチールラックも
  • 機械式は進み・遅れ・動く時間が短くなる、アナログのクオーツは止まりなどの症状が出る
  • 家では方位磁石で目安をチェックできる
  • 磁気抜きはお店に任せる。まずはメーカーのショップへ。自分でやると余計に磁気が入ることも
  • 予防は、磁気を出すものから5〜10cm以上離すだけ

参考にした情報